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掲載日付:2023.05.28

優しい医療 2年目研修医体験談


こんにちは!2023年4月3日から5月7日まで、与論徳洲会病院で勤務させていただきました、研修医2年目の寒河江敬之です。投稿が少々遅くなってしまったのはご愛嬌いただいて、研修を振り返ります。

私は普段、福島県郡山市の総合南東北病院で初期臨床研修医として修行しておりますが、今回ご縁があって、離島研修として5週間お邪魔しました。

まだ肌寒い7℃の地元を出発し、予習も兼ねてDr.コトー診療所の映画を観ながら飛行機を乗り継ぎ、翌日与論に着きました。

那覇→与論の便からの景色



与論島は人口約5000人の島であり、入院ができる医療機関は当院のみ。与論で生まれた方は高校までを島内で過ごし、進学のため島を出て、結婚などのタイミングでまた与論に戻ってくる方が多いと聞きました。

信じられないほど大きなバッタに驚きながらも、穏やかな気候、波の音に癒されながら、到着した日。ちょうどサトウキビの収穫が終わった時期で、ざわわと揺れる音が聞けなかったのが残念でしたが・・・。

与論のメインストリート「銀座通り」


島唯一の信号機





1人暮らしには十分過ぎるほど快適な宿舎



病院での研修は非常に充実しておりました。平均で15人程度の入院患者さんを受け持たせていただき、加えて外来や訪問診療、救急対応などでてんやわんやの毎日でした。頭の先からつま先まで多彩な疾患に対応する必要があり、自分の知識・技術・経験が不足していることを痛感させられました。どのようにすれば目の前の患者さんが良くなるか、本を読んだり上級医とディスカッションしたりと試行錯誤。自分のためと言われると頑張れない私ですが、患者さんの幸せにつながる、と思えば不思議と苦ではありませんでした。

一つ想像と違った点は、相談できる環境がたくさんあったことです。
離島の医療というとすべて自分たちでなんとかしなきゃならないというイメージがありましたが、実際はしっかりとしたネットワークがありました。
常勤である院長にはもちろん、各臓器のスペシャリストの先生方と連絡を取り合うことができるため、自分の手に負えない症例でも、安心して対応することができました。

またしみじみと感じたのは、島の人々に対して「優しい医療」を提供しているということ。
島には当院しか病院がないため、不十分な状態で患者さんを帰すと後に重い病気を患って帰ってきてしまいます。忙しない外来の中、ごく軽度な症状で来た患者さんに対しても、今後を見据えてきちんとしたリスクコントロールをしてから帰宅させる。夜遅くに腹痛やめまいなどで来院し、医学的には緊急性に乏しい状態と思われても、ご本人が不安であれば一泊でも入院させる。患者さんそれぞれに対して匙加減を大事にした医療を提供しているということを、身をもって感じました。

気分転換のために毎週末ダイビングに出かけました。
自由に呼吸ができ、上下方向にも移動できるためまるで宇宙遊泳をしているよう。これはやみつきになります。ちょうど連休に被ったためライセンスを取ることもできました。



亀やニモにも会えました



干潮時のみ姿を現す「幻の」砂浜



お世話になったダイビングインストラクターの方、同僚と



与論の方は、亡くなった場所に魂が残ると信じており、自宅で看取るという慣習があります。たとえ入院中でももうそろそろ、という時がきたら退院し、住み慣れた自宅で、家族や先祖に見守られ息を引き取るというものです。私も自宅搬送を経験させていただくことができました。けたたましいモニターの音がせず、自然の中で静かに息を引き取るその様は、穏やかであり、荘厳であり、一種の儀式のような錯覚を覚えるほど印象深いものがありました。

与論を去ってからも頭から離れず、ふと考えてしまう患者さんたちが何人かいらっしゃいます。忘れられないのは決まって治療がうまくいかなかった患者さんです。私がしてきた医療行為はこれで正しかったのか。少なくとも患者さんたちを不幸にさせず、幸せにする手助けができたのか。診断から治療方針までほぼ全てを任せていただき、患者さんと真剣に向き合う機会をいただけたからこそ得られる感情だと思います。
その患者さんから、「人生は邂逅である」と回診の際にふと言われました。奇しくもその翌日に天に召され、遺言のようになってしまったためおそらく忘れることはないと思います。他人との関わりの中でしか生きていけないのだから、不義理はせず、出会いを大事にしなさい、と私を鼓舞してくださったのだと解釈しています。今回私が当院で研修できたのも、島に住む素敵な方々とお話しすることができたのも、全てが偶然の出会いによってもたらされた幸運であると思います。

総じて、間違いなく今までで最も充実した研修であり、「優しい医療」を実感した5週間でした。今回私が関わった全ての方々に対して、心から感謝を申し上げます。パワーアップしてまた与論に帰ってきます。


お世話になった高杉院長と先生方



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